アクセス解析 カウンター SEO ドリーム愛ランド 「トモ×トラ」【第二章】
ドリーム愛ランド
日々の出来事を日記に書いていきます。
【9/18中華料理屋0:00】
「おかえり」

朋也が中華料理屋に戻ると、テーブルいたのは曽我だけだった。

「あれ、キムは?」

「終電だと言って帰りやがった」

「あらら」

がっかりしながらも、木村らしいとも思って、朋也は席に着く。

とかく自分のペースは崩さない奴なのだ。

周囲に振り回されがちな、朋也や曽我とは正反対の性格なのかもしれない。

「でも、その代わりこれをゲットした」

曽我はジャジャーンと木村のノートパソコンを出してにんまりと笑う。

「え、マジで!?」

あれだけ木村が拒否していたのに、どう言い含めたのか、朋也はとても信じられ
なかった。

「まぁ色々あってな。あいつの言葉を借りれば因果応報ってやつだ」

曽我はフフフと笑う。

その後は喫茶店に移動して、結局朝まで二人の作戦会議は続いた。


【9/17東横線渋谷駅23:30】
「チサはまだ、じゅう、ろく、だからー♪」

駅の構内で、智佐は人目もはばからずに歌い出す。

「もうすぐ18でしょ……チーちゃん」

朋也は智佐に肩を貸しながら、人知れずげんなりした気持ちを抱いた。

傍若無人ぶりは言うまでもないが、何より智佐の呼気が酒臭かったのが嫌だった。

そして16にしろ18にしろ、未成年の飲酒など彼には問題外だった。

「あ、そう明日の夕食会のことなんだけど」

朋也は本題を思い出して、切り出す。

「お父さんは来るって言ってたけど、チーちゃんのお母さんも一緒なのかな?」

機嫌も良さそうだったし、それとなく聞いてみることにした。

「……来るんじゃないの? 知らない。あんな人、チサのおかーさんなんかじゃな
いし」

「いや、お母さんでしょ……。義理かもしれないけど」

「違う、パパが再婚した人ってだけ。チサには全く関係ないんだから、そういう
言い方しないで」

「あ、うん……ごめん」

朋也はここは引くべきところと悟り、謝る。

やはり母親の話題は智佐には禁句なようだ。

「あー先生が変な話するから酔いも覚めちゃったよ。そうだ、飲み直そっか?」

智佐が二パッと笑って言う。

「いやいや」

智佐は朋也が支えてないと、フラフラで立っていられない状態である。

「もう一回、カラオケ行っちゃう? 行っちゃう?」

「いやいや……」

とてもそんな心境でもないし、そんな状況でもない。

そして朋也は、コンビニまでお茶を買いに走ったり、二度ほど智佐が戻した時
は、彼女の背中をさすってあげたり、しばらく休ませた後、電車のホームまで彼
女を送ってあげたりと、結局有用な情報は何一つ得られなかったのだが、発車し
ていく電車を見ながら、今の自分に少し満足感さえ覚えるのであった。

もちろんそれ以上に疲労感を覚えたのは言うまでもないが。

朋也の夜はまだ長かった。

そして智佐が寝て乗り過ごしたりしないように、10分後に電話するのもちゃん
と忘れてはいなかった。


【9/17渋谷23:15】
「あっ電話だ」

智佐の携帯電話が鳴っている。

この時間なので、智佐の家からだと思って、朋也は少し身構えた。

しかし、彼女に携帯を掛けてきたのは意外な人物だった。

「えっ曽我先生? 一体どうしたの?」

智佐も携帯で話しながら疑問顔だ。

朋也は予想外の展開に、高速で脳を回転させる。

「明日、塾に来いって? えーヤダって。明日って日曜だよ? チサにはヨージ
があるのー!」

朋也は智佐の口ぶりから、通話の内容を推測する。

おそらく曽我たちが行う妨害作戦の一環なのではないか。

「だからイーヤー。じゃあ切るからね、またね、曽我センセ。バイバーイ!」

智佐は相手に有無を言わせないまま、早口で通話を切った。

そして朋也に向かって不満そうな顔を見せる。

「全く、明日塾に来いって。テスト終わったばっかりだって言うのに、一体何で
急に授業するなんて言いだしたんだろ」

智佐は首を傾げる。

「ま、無視しとけばいっか。明日は色々と用事があるし」

あっけらかんと言う。

朋也は素早く頭を回転させ、最適と思われる言葉をひねり出す。

「いや、勉強っていうのは予習よりも復習の方が大切なんだよ。テスト直後だか
らこそ意味があるんだって、むしろすごく効果的」

「えー、そんなこと言ってもー」

智佐は不満そうに口を尖らせる。

「今回のテスト、チーちゃんすごく頑張ったんだし、どれぐらい出来ているのか
確認しに行くのもいいんじゃない? 俺も早くチーちゃんの結果知りたいし」

朋也は必要性を説くよりも、褒めておだてる方向にシフトチェンジした。

「うーんそうかなー、でもメンドイしなー」

もう一押しすれば了承しそうだ——朋也は手応えを感じた。

朋也の言葉も、少しは効果があったようだった。

いつも智佐の我が侭放題に振り回されているが、意外と自分の言葉も聞いてくれ
るんだな、と朋也は思った。

【9/17モヤイ像渋谷23:10】
「…………」 

朋也はモヤイ像の前で智佐を待っていた。

既に待ち合わせの時間から10分過ぎているが、まだ来ない。

一応ひさしの下に立っているが、雨が好き放題差し込んでくるので、殆ど意味は
無かった。

膝下はベチャベチャだ。

朋也はもう一度智佐に電話をしてみる。

10回目のコールでようやく繋がった。

「やっと出たか……チーちゃん今、何処にいるの?」

「えへへ、先生の声だー、あははぁ」

「…………」

朋也が想定していた最悪の事態だった。

いや、曽我の作戦通りだからむしろ最高なのか——朋也は複雑な気持ちで続ける。

「もう10分待ってるんだよ。モヤイ像の前で、全く」

「お、先生ハッケーーン!」

通話口から智佐の元気な声が流れる。

朋也は携帯を耳にしたまま、辺りを見回す。

横断歩道の向こう側から、千鳥足で歩いてくる智佐を見つけた。

ちっ——思わず舌打ちして朋也は通話を切る。

「さっき先生、舌打ちしたでしょー!」

智佐は出会い端、ぷーっと頬を膨らませる。

「いや、何言ってるの、雨でしょ雨の音?」

朋也は誤魔化しながら、頭の中で整理する。

——今、一番大事なのはチーちゃんのお母さんを確かめることだ。

あとは終電までにちゃんと返すこと。

朋也は優先順位を確認しながら、とりあえず屋根のある東横線の構内に向かうこ
とにした。


【9/17中華料理屋23:00】
「……ここの親子丼あんまり美味くないな」

木村が不満そうに言う。

「そうか? それはさておき、明日のチーちゃん対策だが……」

曽我は木村の言葉は軽く流し、話を進める。

「授業だって塾に呼び出すしかないんじゃないか?」

木村はお代わりを注文しながら言う。

「やっぱりそれがベストか……」

美味しくないと言いながらお代わりはするのか——曽我は内心でつっこみながら、
状況を整理する。

今回のターゲットは二名。

松ちゃんが両方とも何とかしてくれればいいのだが、もちろんそれは無理だろう。

よって俺ら——「チーム明日葉」が協力する訳だが、祥子さんと面識があるのは松
ちゃんだけ。

なので、必然的に俺らがチーちゃん担当となってしまった。

ちなみにチーちゃんには、自分とキムはバッチリ顔は割れているが、露ちゃんと
ザトは曜日が違うので知らないはずだ。

わざわざ休みの日にまで、何でチーちゃんと会わなければいけないのか——曽我は
詮方ない気持ちをビールで流し込んで言う。

「だとすると今度はどうやってチーちゃんに伝えるか……だな」

曽我が考えを巡らしていると、木村が誰かに電話をかけ始めた。

手には智佐の入塾書のコピーを持っている。

「おいっ、ちょっと待——」

慌てて止めようとする曽我を、木村は手で制す。

そして俺に任せとけ、と目で曽我に言った。

「……夜分失礼します。こちら個別指導塾の智佐を担当している曽我と申します
が。明日、中間テストの解説を行いたいので、智佐さんに塾に来ていただきたい
のですが?」

木村は左手で携帯を持って話しながら、右手で素早くキーボードを打って曽我に
訊ねる。

>何時からにする?

曽我はため息を付きながらも、

>3時

と打って木村に返した。

「……では3時からと言うことで宜しいでしょうか? あ、そうですか。では智佐
さんの携帯番号を教えていただけますでしょうか。はい、090の——」

再びキーボードを叩く。

「——1192ですね。ありがとうございました。それでは失礼します」

木村は電話を切ると、にやっと笑ってPCの画面を曽我に見せる。

「チーちゃんの携帯番号ゲット」

曽我は頭痛がした。

「あのなぁ……まー明日の授業を家の人に上手く伝えられたのはいいだろう。だけ
ど、チーちゃんの番号なんて、松ちゃんに聞けば一発で分かるんだし」

曽我はため息を付きながら言う。

あと、電話口で自分の名前をわざわざ出したのはどうかとも思ったが、それは置
いておくとして、それより重要な問題があった。

「女の人が出たんだろ? ……チーちゃんじゃなかったら、それが誰だって言うんだ」

得心がいかない顔をしていた木村も、ハッと表情が変わる。

「そうだよ。チーちゃんのお母さんの声を録音して、松ちゃんに聞かせれば、一
発で分かっただろうが、ったく……」

「むぅ……た、確かに……」

木村は無念そうに唸る。

塾には内緒でやっていることだし、他の用件を装ってもう一度電話をかけたら変
な不信感をもたれてしまう可能性もある。

「やっぱり明日、コレ使って調べるしかないよな?」

曽我は木村のPCをコツコツと叩いて、フッと笑った。