アクセス解析 カウンター SEO ドリーム愛ランド 「時をかける少年」
ドリーム愛ランド
日々の出来事を日記に書いていきます。
「時をかける少年と少女」[16]終
[16]

三ヶ月後、電車を降りた私の足は、自然とフォームを駆け出していた。

風に吹かれて帽子が飛んでいってしまわないように。

私たちは、二人であの本の7番目の方法を実行中だった。

今日こそは彼より早く着こうと思ったのに、服を選ぶのが予想以上に難航して、気が付けばいつもと同じ時間になってしまっていた。

(それでも約束の時間より、まだ5分早いのだけれど)

いつもと同じ10時25分。

彼の顔を見ると、私は思わず笑みがこぼれてしまう。

その瞬間、その時間は私にとって永遠になる。

人の一生は短い。

宇宙の物差しで測れば、五十年も百年も1ミリにだって満たないだろう。

それならば悠久や永遠も、一瞬と同義。

夢なら、覚めないで欲しい。

けれど現実なら、たとえそれがほんの僅かな時間だって構わない。

その瞬間に全てを込める。

私の恋は一つの区切りを終えた。

それがいつか形を変えて、愛に変わっていったとしても、私の思いは続いていく。

過去、現在……そして未来。

私は恋している。

時をかけて彼に恋していく。

  完

「時をかける少年と少女」[15]
[15]

これから後のことは恥ずかしいし、ものすごくプライベートなこともあるので、割愛気味に話させて欲しい。

あの後、結果として電車事故は起こった。

しかし乗客はゼロ、電車とトラックの運転手も何故か外に放り出されているという、前代未聞の事故だった。

ワイドショーは暫くの間、その不思議な出来事を解明しようと躍起になっていたが、結局何の手がかりも得られず、数週間するとその話題も沈静化していった。

その秘密を知っているのは彼と私だけで、私がそれを知っているのを彼はきっと知らない。

彼は何も言ってこなかったので、私もそのことについては黙っていることにした。

その後、私は一回だけ自分の力を使った。

着いた時刻は10時13分。

そして過去に戻った時、少しだけ早く、あのメールを彼に送ってみようとした。

今なら言えそうな気がした。

私がずっと隠していた気持ちを。

未来できっと解き放った気持ちを。

けれどやっぱり思いとどまって、私は学校に向かう。

今日は9月12日。

いつもの彼のいない火曜日だ。

「時をかける少年と少女」[14]
[14]

私は夢中で走る。

車もバスも電車も全てのものが止まっていた。

事故が起こった付近の駅までは、12駅分。

とても走れる体力は無かったので、自転車に乗って精一杯漕いでいく。

事故の起こったあの踏切へ。

愛する人の下へ。

きっとこの世界では、まだ彼に自分の思いさえ告げられていない。

振られてしまうのは分かっていた。

その後きっとまた後悔して、落ち込んで大泣きすることも分かっていた。

でも今、彼は未来を変えているのだ。

自分のでない、きっと大勢の人の未来を。

それならば私と彼の関係も、違った未来もあるのかもしれない。

別に無くても構わない。

いや、もちろんあった方が良いけれど、それよりも大事なものがあるはずだった。

途中道に迷ったり、車や踏み切りで塞がれいて、大いに迂回しなければ行けないところもあったので、着くまでに2時間近くかかってしまった。

喉はカラカラ、全身は汗でべちゃべちゃだった。

愛しい人は案の定そこに倒れていた。

2000人近くの人をたった一人で、そして最後の車掌をフォームまで運んだところで、彼は力尽きていた。

顔には満足そうな表情まで浮かべて。

私は全力で彼をフォームまで引き上げ、大きく息を付いた。

私には人一人持ち上げるので精一杯だったが、これだけで十分だった。

私の役目は終わった。

そして私の恋心は、永遠に封印されることになった。

「時をかける少年と少女」[13]
[13]

こうして私の恋は終わった。

気が付くと火曜日の朝で、私はいつものように授業を受けていた。

彼のいない、それだけで少し色褪せて見えるいつもの授業風景。
 
今日、事故が起こるのは分かっている。

しかしもうどうすることも出来なかった。

時刻は10時30分、あと数十秒で事故は起こってしまうだろう。

もっと前に戻って、何とかそれを食い止めるという方法もあったかもしれない。

しかしどうやってそれを人に説明すればいいというのだろうか。

電車の運転手に言ったとしても、とても信じてもらえるとは思えない。

トラックの運転手に至っては、どうやって探し出せばいいのかも分からない。

ただ、それでも彼なら、決して諦めはしないことは分かっていた。

だからもう私は彼を信じることしか出来なかった。

私が時間を過去に戻す。

そして彼が時間を未来に移す。

反対のベクトルの力が合わされば、打ち消し合って何も起こらないのかもしれない。

いつも通りただ普通に、時間が流れていくだけなのかもしれない。

けれど唯一、奇跡を起こせるとしたら、もうこの方法しか思いつかなかった。

私は集中して、時間よ戻れと強く念じる。

目を開けた時には、世界の全てが静止していた。

「時をかける少年と少女」[12]
[12]

彼の家に向かう途中で、美容院の前を通り過ぎる。

店の前には「臨時休業します」という貼り紙があった。

私の中の不安な気持ちは、更に色濃くなっていく。

彼の住んでいるマンションに着く。

エントランスを抜け、エレベーターを待っている途中で、私は外の違和感に気付いた。

慌てて駆け寄る。

彼はコンクリートに血を流して倒れていた。

それもかなり酷い状況で。

私は半狂乱になって大声で周囲に助けを求めた。

もう助からないと、薄々は分かっていながらも。

付近のマンションの住民が何事かと出て来る。

彼は震える手で、携帯の画面を私に見せてきた。

『9月14日木曜日、午後9時14分』

それは私が送ったことのない、しかし確かに私が送ったメールだった。

人が集まってくる。

一体何がどうなっているのだろう。

今日は水曜日。私が「未来に」送ったメールを、彼が「今」見せてきている。

そんなはずはない。

ありえる訳がない。

けれど私が書いて――そして結局遅れずに――私の携帯の送信フォルダに未送信のまま残っているメールと、一字一句として違わなかった。

悩みながら、何度も何度も書き直したメールだから、はっきりと文面は覚えている。

遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。

マンションの住人が集まりだしたので、私はその輪を抜けてエレベータに向かった。

迷わず一番上の32階のボタンを押す。

重い屋上のドアを開けると、風がボウと目に飛び込んできた。

足下のコンクリートは、靴越しにでも冷たいのが分かる。

私の中には何となく確信に近いものがあった。

彼は繊細で純粋な心を持っているが、決して安易に自死を選ぶような人ではない。

何か理由があるはずだ。

そしてあの「未来からきた」メール。

フェンスには、彼のものと思われる血痕があった。

もし彼の言うことを信じるのならば、彼は未来で私のメールを受信した後、何らかの方法で過去に戻ってきたのだろう。

何らかの方法とは、この血痕と今の彼の状態を見れば想像がついた。

おそらく強いショックを与えれば与えるほど、過去に戻れるということなのではないのだろうか。

しかし一度は成功したものの、彼の意図した過去には戻りきれず、瀕死の状況にいる。

そして「今」よりも、もう彼は過去に戻ることは出来ないだろう。

何故ならこれ以上の強い衝撃なんて存在しないだろうから。

彼は言った。

「時をかける少女」を読んで、自分にも出来ないかな、と思ってちょいとチャレンジしてみたら、案外簡単に出来たと。

私もその本は読んだ。

そして彼の力が足りないというのなら、他に誰の力を足すというのだろう。

冷たいフェンスに手を掛ける。

私は彼を信じた。