アクセス解析 カウンター SEO ドリーム愛ランド 「時をかける少年と少女」[5]
ドリーム愛ランド
日々の出来事を日記に書いていきます。
「時をかける少年と少女」[5]
[5]

もし過去に戻れるなら、私が戻るのは、あの時しかない。

一年と少し前、クラス分けの時から、彼のことは少し話題になっていた。

でもそんな視線を少しも気にした様子もなく、彼は黙々と(見方によっては飄々と)学生生活を送っていた。

たまたま雨の日の放課後、たまたま傘を忘れて、たまたま予約を入れていた、歯医者まで向かうバス停へ駆け込む道で、彼と一緒になった。

そんなたまたまが3回続いて、私はいつの間にか彼と話すようになっていた。

哲学的な、時には神秘的な言葉を紡ぐ彼の話は、実に新鮮で、芳醇な果実のような香りがした。

それから私は、朝の時間と昼休みが待ち遠しくなっていた。

そんな中、彼が隣のクラスの女の子と交際しているということを、クラスの人たちが話すのを聞いた。

とても小柄で可愛らしい女の子だった。

美男美女のお似合いだと思ったし、「私も彼とは友達として接しているだけで、他意は無いから」と、クラスメイトには笑顔で言った。

正直言うと、少し凹んだ。

別にハートブレイクという訳じゃなくて、ただ彼と話す時間も、これで終わりだと思ったから。

彼は「そんなの気にすることじゃない」と言うかもしれないけど、その彼女にしてみれば、他の女性が彼と親しく話しているのは嫌だろう。

もし私が彼の彼女だったら、多分……嫌だ。

  ****

帰り道、私は傘を差しながら、いつもの本屋に向かった。

うつむきエスカレーターに乗っていた私が、階上に着いて、顔を上げたその先。

私の身長の、ちょうど視線の先に、『悲しみを乗り越える7つの方法』という本があった。

いつもはきっと意識にさえ上らないのに、その日は何故か気に懸かって、うろうろして、最終的に、私の本棚に並ぶ一冊になった。

正直言うと、私はかなり凹んでいたのかもしれない。(自分でも気付いてなかったのだけれど)

お気に入りの美容室の、お気に入りの美容師さんに切ってもらったら、お気に入りのヘアスタイルになる。

私は新しいミュールと、新しいスカートを新調し、新しい髪型で(短くなって少し照れくさいけれど)、新しい出会いの準備をして学校に向かった。

その後は、彼とは微妙に距離を置いた。

彼は変わらずに話し掛けてきたが、私は同性のクラスの子たちと親しくなり、彼女たちと会話する時間が増えていくに連れて、次第に彼と話す時間は少なくなっていった。

寂しくないと言ったら嘘になるけれど、新しい友達との時間も充分心地よくて、彼も昼休みは一人教室を出て、恋人と過ごしているらしいとのことだった。

これでいいのだと思った。

その彼女に、新しい恋人が出来たと耳にしたのは、それから一ヶ月半程した後だった。

相手は2つ上の先輩とのことだったが、動揺して詳しくは覚えていない。

彼と二股をしていたのか、それとも別れた直後に付き合い始めたのか分からないけれど、いずれにせよ、彼は別れを告げられたようだった。

いつも誰よりも早く来て、一番前の席に座っていた彼が、三日前から時間ギリギリなって教室に入ってきていた理由が、私はようやく分かった。

私と彼の関係も、いつの間にか彼と他のクラスメイトとの関係ぐらいに、距離が開いてしまっていた。

彼は何人かの女生徒たちから人気があったけれど、彼にはそんな気持ちは無いらしく、それ故にいつも孤高だった。

私は彼の元に行って、何か話し掛けたかった。

でも自分から距離を取っておいて、別れたからまた近づくというのは、あまりに卑怯で、何より身勝手過ぎると思った。

結局、彼の斜め後ろの席で、彼の息遣いさえ聞こえようというのに、私はその手を伸ばすことをしなかった。

夜空に浮かぶ月を見上げるように。

その月は欠けて、今にも消え入りそうだというのに。

  ****

そんな日の帰り道も、また雨の日。

私は歯医者に向かうバス停までの道を歩いていた。

長い矯正もようやく終わり、あとは奥歯の治療だけだ。

パラパラとリズムよく、ナイロン傘の上を雨粒が跳ねる。

そして思い出していた。

彼と初めて話した日のことを。

私はあの時に戻りたかった。

恋人はいたけれど、彼の様々な表情が見ることができた暫しの日々に。

それは、改めて特別だった。

バス停に着き、バスに乗り、歯医者に行っても、そこに彼はいなかった。

偶然はもう起こらなかった。

『星は見えるか見えないかじゃない。見るか見ないかだ』

彼の言葉を思い出す。

『この曇り空の向こうにも、星は変わらずあるんだ』

それなら、昼間でもきっと、頭上に星は輝いているのだろう。

見えるか見えないかじゃない。

例えば分厚い雲に覆われた、今日の雨空の上にも。

見上げると、治療したばかりの奥歯までズキズキと痛んだ。

目を閉じても、それは決して消えない輝きだった。

恋してた。

私は完全に恋をしていた。

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