「やっぱ転ばぬ先のキャンプ用具だな」
中里はテントロープで器用に縛っていく。
男は完全に気絶して泡を吹いていた。
「ふぅーこれでよしっと。こいつ、知ってる奴か?」
振り返って、ベッドの上の友里に訊ねる。
友里はふるふると首を振る。
まだショックが残っているようで、魂が抜けたような顔をしている。
「一体……どうやってこの家に……?」
ポツリと友里が呟く。
エントランスの自動ドアは、居住者がいれば一緒に入ることは出来る。
だが、玄関のドアはオートロックだった。
「入った方法? ……ふむ、なるほど」
中里は顎に手を当ててゆっくりと頷いた。
「今日来る時に、エントランスでソファを運ぶ作業服姿の男とすれ違った」
そしていつものように何の脈絡も無く、話は唐突に始まった。
「顔は覚えてないが、金髪だったのは覚えている。これがまず一つ。そしてこいつはかなり良い体格をしている」
中里は男の横にしゃがむ。
「つまり引っ越し作業にかこつけて、合い鍵を作ったってところが妥当だろうな」
そう言って男のポケットの中を探った。
「ほら、あった。これで入ってきたんだろう」
ポンと鍵を投げる。
友里は呆然とした顔でそれをキャッチする。
そして中里は財布の中から従業員証を見つけて、読み上げていった。
「やっぱりこの男の職場は引越センターだったな。自分の仕事を悪用するなんて、何て下衆な奴なんだ」
ふんっと吐き捨てるように言う。
「それに『俺のエビちゃん』だなんて……好みまで物好きときたよ。やれやれ」
そう言ってため息を付く中里を見て、友里は唖然とした顔になった。
しかしすぐに表情を戻し、立ち上がる。
「で、どうするこの男?」
汚らわしいものを見るように横目でちらりと見る。
「どうするって?」
「マスコミとかには知られたくないけど……やっぱり警察に連絡した方が良いわよね」
「け、警察!?」
「ちょっと何よ……貴方、警察の話になるとキャラ変わるわよね……って!」
「ふぎゃあ!」
手に飛びついてきた中里を、友里は思い切り蹴り飛ばした。
「まさか貴方、何か犯罪を?」
「いや……よく指名手配顔って言われるが、決してそういう訳では無い。ちょっとやむにやまれぬ事情があるんだ」
中里は複雑な表情で言う。
「相変わらず意味不明ね。でも、やっぱり警察呼ぶしか仕方ないわよね」
そう言って友里は携帯を取る。
「警察は! け、警察は!」
縋るような目で見てくる中里に、友里は思いっきり眉間にしわを寄せた。
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