アクセス解析 カウンター SEO ドリーム愛ランド 「クレイジーザト」[36]
ドリーム愛ランド
日々の出来事を日記に書いていきます。
「クレイジーザト」[36]

ついに頂上がはっきりと姿を見せた。

あと三十メートル。

自然と三人の心は軽くなっていった。

一刻も早く着きたいという気持ちはあるのだが、体は思うように動かない。

すぐ近くにあるように見えるのに、なかなか近付けなかった。

けれど、もう焦る気持ちは無かった。

あの場所より高いところなんて、何処にもないのだから。

「やったぁー!」

中里が嬌声を上げている。

どうやら到着したようだ。

続いて松本。

曽我は少し遅れていた。

殆ど休み無しに登ってきた疲労が、ここになって一気に体にきていた。

中里が飛び跳ねながら手を振っている。

松本も黙って見ている。

曽我は一歩一歩気力を振り絞って、足を前に動かしていった。

ようやく登頂――と思った手前で、松本は待っていた。

中里はそれを見て、にこにこしている。

「やっぱり最後は、一緒にゴールしないとね」

松本は片目をつぶって言う。

曽我も恥ずかしそうに笑って、松本と肩を組んだ。

「「ゴーーーール!」」

二人で声を揃えて、最後の一歩を踏み出す。

瞬間、様々なことが頭を過ぎってくる。

十二時間前の中里のメールに始まって、警察署、登山用品店、いろは坂、木村の脱落、松本の滑落、ホワイトアウト、雪崩、寄せ鍋……。

気が付けば、目から熱いものが込み上げてきていた。

止めようと思っても、とても止められない。

自然のエネルギーが溢れてくるようだった。

「ついたぞぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

目の前で吹く風に負けないよう、力一杯叫ぶ。

手を広げ、目をつぶる。

タイタニックの主人公になったように。

この世界がまるで自分のものであるかのような、世界との一体感を感じていた。

目を開ける。

山際に光の筋が見えた。

赤い光。

それは生命を想起させる、力強い光だった。

呼吸を止めていた景色が、生まれ変わっていくように、徐々に世界が色づいていく。

「…………」

曽我はその光が、生まれたての赤ん坊のように思えた。

大きな大きな産声を上げて泣く、世界の幕を開く輝き。

それならば、太陽を包むこの風は母親なのだろう。

風は世界を、そして自分たちの体を包んでいる。

三人はただ呆然と、その一連の動きを見ていた。

それは、長い長い日の出だった。

しばらくして中里が、記念写真を撮ろうと言い出した。

「ん? デジカメなんて持ってきてないぞ……」

「えぇーっ? あれだけ荷物を持ってきたっていうのに、肝心なものを忘れてくるなんて」

二人は顔を見合わせて、これはどちらが間違えているのだろうかと葛藤した。

そう言えば、山に登るため以外のものは、何一つ持ってきていなかった。

中里はぶつくさ言いながら、携帯のカメラで撮ることに決めたようだ。

「曽我さーん、もうちょっと奥行って下さーい。体が切れてまーす」

「えっ……そんなこと言ったって、これでギリギリだぞ?」

中里は携帯の画面を覗き込みながら、もう少し後ろ後ろとジェスチャーしている。

ちなみに曽我も松本も、既に限界まで後ろに下がっている。

これ以上は崖だ。

「それでは行きますよー?」

中里が手を挙げて、合図を送ってくる。

曽我と松本もVサインをして、笑顔を作った。

「チーズ、5、4、3……」

「……って、お前も写る気なのかよっ!?」

中里はカウントダウンをしながら、二人の元に駆け寄ってきた。

「おいおい、山頂を走るなって! うわぁ押すなって!?」

カシャ――。

セルフタイマーでシャッターが切れる。

曽我と松本は、必死で岩にしがみついていた。

その時、バタバタバタ――と上空から音が聞こえた。

顔を上げると、太陽の光が目に入った。

その向こうに、うっすらとヘリコプターの姿があった。

「おーい! こっちでーーす!」

中里は、ウインドブレーカーを手に持って、ぐるんぐるん振り回している。

ヘリコプターはゆっくりと旋回して、こちらに機首を向けた。

「おーーい! やっほぉーーい!」

その後ろで松本は、目を細めて御来光の空を見ていた。

「……デジカメは無いけど」

松本は小さな声で呟く。

――シャッターなら何枚も切ってるさ……心のね。

今なら勢いで言えそうだったが、でもやっぱり少しキザ過ぎる気もしてやめておく。

そして帰ったら、たっぷりと彼女に話してあげようと思った。

  完

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://sogaken.blog110.fc2.com/tb.php/490-cb152ada
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック