「そのための手助けとして、こちらのリュックには様々な種類の武器を用意しております。原始的な武器から殺傷能力の高いものまで。これは誰もがチャンスをつかめるように配慮したものでもあります。腕力がある人、体力がある者だけが勝利しては不平等ですからね」
固まって震えている数人の女性講師に目を向ける。
「奪いとれって言うのか? 俺たちに生徒を殺せっていうのか!?」
なお詰め寄ろうとしている曽我の肩を、松本は必死で押さえる。
「誰もそこまでは言ってませんよ? もちろんどう解釈するのも、皆さんの自由ですが。力に任せて奪う方もいらっしゃれば、説得して手に入れる方、中には日頃の皆さんの指導に感謝して、自ら差し出してくるような生徒さんもいらっしゃるかもしれませんね」
そんなことは戯言に過ぎないと誰もが分かっていた。
自分の命を犠牲にしてまで、他人を助けようとする人などいるだろうか。
生徒対講師の構図でアンプルを奪い合う、血で血を洗うような争い。
それがこの場にいる講師全員に浮かんだ光景だった。
「見事アンプルを獲得され、二種類のアンプルをセットすることが出来れば、勝利になります。七十二時間後、もう一度こちらに戻ってきていただければ、すぐに装置を解除します。またその後は完全な自由と、コーマツでの最高の待遇をお約束します」
佐々木は満足そうに微笑む。
「ウイルス? ワクチン? 何、SFじみたこと言ってるんだ。俺らがキャリアで、七十二時間以内に命を落とす証拠が何処にあるっていうんだ。お前らが勝手に言ってるだけろうが」
確かに教務の言葉を裏付ける証拠は無かった。
講師たちが見たのは、あくまでもマウスの映像だけだ。
「心外ですね。こちらはわざわざ親切心から情報を提供してあげたのですが」
曽我は声を出して笑う。
「心外? 親切心? 何が勝利だ。何が最高の待遇だ。そんなもん誰も求めちゃいないんだよ。完全な自由など、元々俺らが持ってたものだろうが。それを勝手に奪っておいて、配慮だと? イカレ野郎が戯れ言抜かすな」
「誰に向かって口を利いているんだっ! お前らの生殺与奪の権など、とっくに俺らが握ってるんだぞ!」
横にいた望月の顔が、一変して歪んだものに変わる。
或いは元来の気質はこちらの方だったのかもしれない。
口調からは普段の慇懃さは完全に消えている。
「室長も副校長も、何でこんな馬鹿げたことを真面目に聞いてんだよ。今すぐこの変な装置を外して、俺らを解放しろ。このままじゃお前らも揃って犯罪者だぞ? 捕まったら一生刑務所からは出られねぇぞ?」
曽我は完全に逆の立場になって脅迫を仕掛けていた。
相手の感情を揺さぶり、自分に有利になるように相手をコントロールしていくのは、彼の得意とするところだった。
「ふん、何を分かったような口聞いてやがるんだ」
「何にも分かりませんよ」
曽我は言葉遣いに丁寧さと乱暴な言葉を入り交じらせ、距離感を混乱させていく。
「室長だって生徒のために必死になってたじゃないですか。そりゃ上につつかれてのことなのかもしれないけど、全部が全部その為だった訳じゃないでしょう? 二月の寒い中、一緒に校門前で並んで、受験前の生徒に力一杯エールを送ったじゃんか。生徒が合格した時、掲示板の前で一緒に涙して喜んだじゃないか? あれも全部嘘だったって言うのかよォ!」
「お前に何が分かるっ!? 俺だって自分の家族が生命の――」
その時、パン――と乾いた音が響いた。
銃声を聞いたのは、生まれて二度目だった。
何と呆気ない、何と冷たい音なのだろうと曽我は改めて思った。
望月は呆気に取られた表情のまま、額から赤い糸を垂らして倒れた。
そしてその後はピクリとも動かなかった。
文字通り即死だった。
「……黙れ、これ以上は私語禁止だ」
ずっと横で控えていた副校長が口を開く。
彼の手にあった銃口からは、薄く煙が出ていた。
校長に向かって一礼すると、また一歩下がって口を結んだ。
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