残る講師は自分だけになって、ゆっくりと曽我は口を開いた。
「お前“ら”の目的は何だ? 講師を育成するためだけじゃないんだろう」
一瞬目を丸くした後、佐々木は顔を綻ばして手を叩いた。
「さすが曽我先生。いや、さすがです。貴方は本来ならこのプログラムに参加する必要のない講師でした。貴方は昨年度も我が社にとって、“いい数字”を稼ぎ出してくれましたからね」
佐々木は手を組んで語りかける。
「そして講師室での行動、非常階段での判断、屋上での動き、どれも見事でした。咄嗟にあれ程動ける人はなかなかいませんよ? まぁ全て全くの無駄足に終わってしまいましたがね、ハハハ」
佐々木は自身の足元に転がっているものに、ちらっと目線を向ける。
「室長も貴方のことは随分買っていました。確かかなりの額を注ぎ込んでいたはずです。まぁこんな風になっては、賭けも不成立でしょうが」
――賭け? 優勝候補?
曽我の中にあった疑問の一つが見えてきたような気がした。
どうやら裏で黒い金が動いているようだ。
そして単純に殺し合いが見たいだけだったら、こんなに手の込んでゲーム性のある方法は採らないだろう。
「講師陣と生徒陣、貴方はどちらに賭けますか? まぁ当然自分たちに賭けるに決まっているでしょうが」
佐々木の口振りは、まるで講師と生徒に分かれた団体戦になると見通しているようだった。
そして必ずどちらかが勝利し、はっきりとした決着が付くと。
曽我は地面に倒れている元上司を見ながら、低い声で言った。
「……あぁ、俺たちは絶対に勝利してやる」
曽我の目には光を映さない望月の目が映っていた。
「では特別に私のポケットマネーから一ゲーム分賭けておいてあげましょう。もし勝ち残ることが出来れば、私共々、億万長者間違い無しですよ?」
佐々木は両手を広げて言う。
曽我は下を向いたまま、気が触れたように笑い始めた。
「くくくっ……ははははっ」
可笑しくて可笑しくて堪らないといった表情だった。
そしてはっきりと佐々木の目を見て言った。
「……何言ってんだ、お前は? 俺たちって言うのは、俺ら講師たちのことじゃない。講師に生徒、全部ひっくるめてのことだ。……全員で俺らは勝利する。そして敗北するのは、お前らだ」
言い切って佐々木を睨みつける。
「俺は一人も殺さないし、一人も殺させない。全員で勝って絶対に帰ってやる」
それは誰よりも自分自身に向けての勝利宣言だった。
同時に心の中で強い戒めを結ぶ。
何よりも自分自身に負けないと誓った、ある種の覚悟でもあった。
「はは、そう来ましたか? まぁいいでしょう。どう捉えるのも貴方の自由ですし」
佐々木は口元を歪めて答える。
「ではさっさとそのリュックを持っていくことです。あと二分でウイルスが散布されます。早くしないと、せっかくの優勝候補がここでデッドエンドになっちゃいますよ」
曽我はしばらく迷いの表情を見せた後、着ていたジャケットを脱いで、倒れている望月にそっと掛けた。
偽善かとも思ったが、このまま惨たらしく放置されたままというのは耐えられなかった。
最悪な奴だった。
けれど望月にも何かしらの理由があったということは想像できた。
彼が生徒のために見せた笑顔までが、全て嘘だったとは曽我には思えなかった。
その行為に副校長は冷たい視線を送っていた。
曽我は残されたバッグを持って教室を出て行く。
ガランとなった教室で、佐々木は呟くように口を開く。
「一人も殺さないし、一人も殺させない?」
そしてPDAを起動させ、悪魔のような笑みを浮かべる。
「ははっ……もう死亡者は出ているというのに」
□■第二章 完
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