そうして数分間地面を叩きながら、松本は自身の痛みにもがき苦しんでいた。
木村に裏切られたという心の痛みは、実際に撃たれたことによる肉体の痛みで掻き消えていた。
上方でがさがさっと葉が擦れる音がして、ようやく松本は気が付いた。
ここで声を上げていたら、今度こそ生徒の格好の的になるということに。
「…………」
両足とも撃たれ、しかも武器は無く丸腰の状態だった。
松本は蒼白になって、這うようにして木の幹を掴む。
そして何とかこの場から移動しなければと思った。
「松ちゃんか? 松ちゃんなんだな?
何処だ、何処にいるんだ」
突然自分の名を呼ばれビクッと震える。
しかしその声は紛れもなく信頼できる男の声だった。
松本は木の幹にもたれ掛かるようにして、口を開く。
「……曽我くんか?
こっちだ、下の方だと思う」
曽我はすぐに斜面を滑るようにして降りてきた。
そして幹を背にしゃがみ込んでいる松本の姿を見て、目を丸くする。
「お、おい、まさか……?」
「あぁ撃たれちまった……。
それも木村にな」
松本は自嘲気味に言う。
曽我の表情は、更に驚きの色を増していた。
しかしすぐに自身がすべき行動に気付いたようで、リュックを下ろして松本に近付く。
「ちょっと我慢しろよ」
松本は片目をつぶって頷く。
曽我は矢柄を掴むと、躊躇いなく引き抜いた。
「ぐあぁぁぁあぁぁぁっ!」
松本の絶叫が木立を縫って響き渡る。
矢尻からは糸を引くように血が垂れていた。
曽我はリュックに入っていたペッドボトルの水で患部を洗浄すると、ワイシャツの袖を破って、ぎゅっと右足の付け根を縛った。
「これで血は止まるはずだ。
あとは一時間おきに少し緩めて、血を通わせる必要がある。
ま、ブラックジャックを読んだ知識だけどな」
松本は悶絶しながらも、口元で笑みを作って感謝の意を示した。
左足の方は弾が完全に貫通していたらしく、思っていたよりは軽傷のようだった。
「それにしても木村が、か……」
松本の治療を終え、曽我も幹に寄り掛かりながら口を開く。
「あぁ今思えば、あいつらしいと言えばあいつらしい。
あの時はとてもそんな風には思えなかったけどさ」
松本は自虐したように笑う。
木村は松本を撃ち武器を奪っていったが、命までは取ろうとしなかった。
徹底的に合理の下に自己の利益を追求するという、木村の性格がよく表れていた。
「だとしても信じられないぜ。
まさか仲間を撃ってまで武器を奪おうとするか……?」
曽我と木村は基本的な考え方は似ていたが、決定的に異なるところがあった。
それは松本ははっきりと気付いていた。
どちらも論理的に行動する姿勢は変わらないが、木村が自己の利益のみを求めるのに対して、曽我は集団の利益の最大値を求めようとするのだった。
もちろんその集団には本人も含まれているが、全体の利益を優先するために、自己の順位が下がることさえあった。
周りがいて初めて自分がある、という実に彼らしい考え方だった。
自分は何を第一に考えているのだろう――松本は心の中で自問した。
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